今が導入のチャンス~農薬散布ドローンの規制緩和(運用編)

令和元年7月に、国土交通省及び農林水産省から農薬散布ドローンに関する取扱いの見直しが発表され、規制が大幅に緩和される方向となりました。機体導入時にかかる費用やランニングコストが大幅に下がることから、ドローンによる農薬散布をお考えの皆様にとりましては、今がチャンスかもしれません。
また、運用面においても規制が緩和され、ドローンのもつインテリジェント機能を活用できるようになります。

ドローン規制緩和の流れを紹介するコラム第2回は、ドローンよる農薬散布の運用面がどう変わるかについて解説します。

三つのポイント

  • ドローンのインテリジェント機能の解禁
  • 農薬散布方法の規制緩和
  • 使用できる農薬が増える

ドローンのインテリジェント機能の解禁

農薬散布ドローンについては、他の産業用ドローンと異なり、航空法の許可・承認だけでなく、農林水産省が定める「空中散布等における無人航空機利用技術指導指針」(以下「指針」と記載)に従って行うこととされていました。これはもともと、農薬散布用の無人ヘリコプターに対して定められた指針をマルチコプター(ドローン)に拡大適用したものでした。

「指針」によれば、外郭団体である一般社団法人農林水産航空協会(以下「農水協」と記載)が空中散布のために必要な一定の性能を有する無人飛行機であることを確認し機体の登録をすることになっていました。そこで、ドローンメーカーは農水協に機体を持ち込み安全のための一定の性能を有するかどうかの試験を行っていたのですが、農水協が最新技術の評価について消極的でした。例えば、産業用ドローンは一般的にバッテリーが少なくなったり、コントローラーとの接続が切れると自動的に離陸地点に戻る機能がついていますが、農水協はこれらの機能の安全性を認めず、その結果、緊急時にはその場で墜落させるしかありませんでした。

このためドローンメ—カーが工夫して実装した便利な機能がほとんど生かせず、国産ドローンの開発意欲をそぐ結果となっていたことは否めません。

※「空中散布等における無人航空機利用技術指導指針」はあくまで指針であり、法律ではなく、罰則もありませんでした。そのためあえて農水協の機体登録をせず独自の機能を搭載したドローンを販売しているメーカーも見受けられました。

7月から「指針」が廃止され、農薬散布ドローンの安全性やオペレーターの能力の確認については航空法による許可・承認手続に一本化されました。また、農薬の安全使用に関する事項については新たに農薬取締法に基づく「空中散布ガイドライン」を作成することとなりました。結果として、様々なアイデアを投入することができるようになり、農薬散布ドローンの開発競争が本格化してくると思われます。

※なお、この制度変更はマルチコプター(ドローン)に限られ、無人ヘリコプターの取扱いについては、ほぼ従来どおりとなります。

農薬散布ドローンのインテリジェント機能

現在発売中、あるいは開発中の農薬散布ドローンに搭載される機能には次のようなものがあります。

  • 高度な位置捕捉
  • フェイルセーフ
  • 衝突防止センサー
  • ジオフェンス
  • AB地点登録
  • エリア指定散布
  • ピンポイント散布

ドローンのすぐれた点は、コントローラーから手を離せば風がある中でも静止してくれることです。風に流されてどこかにいってしまうことがないため、無人ヘリコプターと比べて格段にコントロールしやすくなりました。これはドローンに内蔵されてるGPSを始めとする位置捕捉センサーによるものです。
最新の機種ではRTKと呼ばれるGPS補正情報を用いることで数メートル単位の誤差を数センチにまで修正し、極めて正確な位置捕捉ができるようになりました。
これは単に誤った場所に農薬を散布してしまう危険を減らすにとどまらず、将来の無人運行の土台となる画期的な技術です。
フェイルセーフや衝突防止センサーは、電池切れや電波遮断によりドローンを墜落させたり、人や物に衝突する危険を減らすことができます。
ジオフェンスは、作業範囲外にドローンが飛んでいかないようにする仮想の壁を設ける機能です。

農薬散布のための便利な機能として最初に登場したのがAB地点登録機能です。これは一番手前の地点(A)と一番奥の地点(B)を登録すれば、あとは散布幅に応じて往復、横移動を繰りかえしてくれるものです。これはあくまで人間の操縦を補助するという位置づけだったため、従来の枠組みの中でも認可されていました。


これから主流となるのは、コントローラー上に表示される地図で散布エリアを指定すると、ドローン自身が最適な飛行ルートを割り出し、離陸から散布、着陸までを行う機能です。スイッチを押せばドローンが自動的に農薬を散布してくれます。薬剤がなくなると帰還して補充を促してくれます。これはそれほど目新しい技術ではなく、すでに機能を搭載済のドローンもあります。日本では認可されなかったため機能が無効となっていましたが、規制緩和により正式に使えるようになります。


さらに将来的には、圃場の状況を空撮画像や衛星などから読みこみ、必要な場所にだけ農薬散布を行う機能(ピンポイント散布)に進化していくと言われています。農薬散布をほぼ自動で行い、使用する農薬の量を大幅に減らすことができる夢のようなシステムです。農薬散布だけでなく、追肥や除草などの機能も統合できます。

これらの機能の解禁により、日本の農業はスマート化、省力化が進み、人手不足や後継者問題などを解決する選択肢の一つとなっていくことでしょう。

エリア指定散布、ピンポイント散布などの自動飛行を行うためには、航空局に別途、飛行承認申請をする必要がありますのでご注意ください。

農薬散布方法の規制緩和

「指針」では、オペレーターとドローンが離れてもよい距離、散布ノズルの最大幅など農薬散布作業について、こと細かな決まりごとがありました。中でも厳しいのが補助者(ナビゲーター)設置義務です。補助者は対象範囲の境界に立ち、手旗や無線によりオペレーターにドローンの位置、接近者や障害物の有無を知らせる重要な役割があります。よって、農薬散布作業は1人ではできない決まりとなっていました。
これらは、位置補正機能のない無人ヘリコプターを人間が目視できる範囲で安全に飛ばすため、また薬剤を対象範囲外に飛散させないためのルールでした。

「指針」に従う限り、作業効率の面では飛行時間、薬剤搭載量で勝る無人ヘリコプターに軍配が上がっていました。でも、ドローンのインテリジェント機能を活用すれば、補助者の役割を補完して安全に作業ができ、作業の効率化、省力化が図れるはずです。

では「指針」が廃止されるとどうなるかというと、原則として補助者設置義務は存続します。しかし、一般道路や隣地など農薬を散布してはならない場所との間に一定の緩衝区域を設けた場合は、例外的に補助者を置かなくても作業ができることになりました。(なお、この緩衝区域の幅はドローンの飛行高度や位置捕捉機能の性能によって変わります。)

さらに、緩衝区域を設けた圃場については一人で農薬散布作業ができるにとどまらず、下記のようなこともできるようになります。

  • 自動操縦
  • 目視外飛行
  • 夜間飛行

これにより、プログラムを設定しておけば、人通りの少ない夜間にドローンに農薬散布を任せるということも可能となります。

なお、上記のような運行をするためには使用するドローンの性能の要件、離発着場所と接続する圃場に限られる(飛び地ではできない)といった条件があります。また別途、航空局に飛行承認申請をする必要がありますのでご注意ください。

使用できる農薬が増える

ドローンによる農薬散布をする上で、使用できる農薬や除草剤が少ないという問題がありました。

これは、地上散布の場合とドローンで空中散布を行う場合とでは希釈倍率などが異なるためあらためて残留農薬の安全性等を確認する必要があるとされていたからです。農薬メーカーにとっては、ドローン用の認可を受けようとすると期間もコストもかかるため、現段階では市場規模の大きくはないドローン分野に参入することに二の足を踏んでいたと思われます。

しかし、規制緩和により、農薬メーカが既存の地上散布用農薬の希釈倍率をドローンに適した濃度に見直す変更登録申請を行う場合は作物残留試験を不要とする扱いとなります。

よって、これからはドローンで空中散布ができる農薬の種類が増えていくと思われます。

ドローンによる農薬散布は特別なものではない

規制改革推進会議において、ドローンを含め、農薬散布に当たり使用する散布機材は使用者の自立的な判断に任されることが確認されました。

これは、技術の発達によりドローンの操縦が誰でも容易に、安全に行うことができるようになってきていることを踏まえて、ドローンだけを特別視せず、噴霧器やスプレッダーと並ぶ一般的な農薬散布手段の一つと位置づけることを意味します。

年間の散布計画提出も廃止された現在、ドローンによる空中散布は何時でも撒きたいときに撒けるようになっていくことでしょう。

このように、導入面においても運用面においても格段に敷居が低くなったことから、今年はドローンによる農薬散布元年となり、普及が加速的に進んでいくものと思われます。

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